山口地方裁判所 昭和34年(行)6号 判決 1962年11月26日
原告 有限会社 藤香田商店
被告 下関税務署長
訴訟代理人 森川憲明 外六名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、請求原因一の事実は当事者間に争いがない。
二、被告答弁二、記載の事実中、被告作成にかゝる法人税課税決議関係書類の所得金計算書の「損金計算法人税額」欄に記載されている金一二万八八二一円の内訳が実際は、
(イ) 損金計算法人税額金七万八七二一円
(ロ) 前期損金又は益金不存在の否認金中原告が積立金増額の方法によつて帳簿を修正したもの、
A 営業税否認金八八六一円
B 売掛金帳尻超過金一万五八六一円
C 買掛金減少額金一万一六二一円
(ハ) 当期における経費等否認金一万三七五七円
であること、但し被告が答弁二(二)において主張する如く
A 建物減価償却認容金四三三円
B 法人計算利益金誤記入金一〇〇円
の関係から原告の申告所得金額と被告の更正した課税所得金額の差が金一万三二二四円であること、及び(ロ)の合計額、前記「所得金額計算書」の既往否認金認容額」欄において所得金額から控除され当期の課税対象となつていないことは当事者間に争がない。
三、そうすると本件争訟の焦点は、前記所得金計算書の「損金計算法人税額」欄に記載されている金一二万八八二一円の内容の一部にして、被告が当期経費等否認したものゝうち金一万三二二四円の否認原因の有無にあり、原告はこれが明らかにされない以上本件更正処分には徴税官吏による所得金額認定の誤りがあり、それが重大且つ明白な瑕疵に相当すると主張するのでその当否につき判断する。行政処分が当然無効であるというためには当該処分に重大且つ明白な瑕疵がなければならず、こゝに重大且つ明白というのは処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大且つ明白な瑕疵がある場合を指すと解せられる。
この場合瑕疵が明白であるかどうかは、当初から誤認であることが外形上客観的に明白であるか否かにより決すべきところ、これを本件について見るに、被告が前記答弁事実第二項記載の事情により、「損金計算法人税一欄の金額を金一二万八八二一円と記載し、これに基き原告の所得額を算出し、本件更正処分をなしたとすれば、右処分には一応右の意味における明白なる瑕疵を有していたものと見られなくはない。
しかし、さきに述べた如く、右「損金計算法人税欄」の記載は実際には被告主張の如き誤記に基くものであることにつき当事者間に争がなく、従つて只右記載金額の一部たる当期の経費等否認額金一万三二二四円についての否認原因の有無のみが本件行政処分を無効とすべきか否かを判断すべき唯一の争点であつて見れば、もはや本件行政処分には前敍の意味における明白な瑕疵があるとはいえないといわなければならない。けだし、右は畢章収入及び経費の把握を誤つたことに由来する瑕疵であり、かゝる瑕疵は事実関係を精査して始めて判明する性質のものであり、外観上明白に捕捉し難い性質のものであるからである。のみならず仮りに右金額につきその否認原告が明らかとならず、従つてこの範囲で本件行政処分につき原告主張の如き所得の誤認があるに帰するとしても、この程度の瑕疵を以てしては、とうてい本件行政処分に重大な瑕疵があるということはできない。
四、以上の理由により原告の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 竹村寿 井野口勤 石井恒)